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一級建築士について

建築

今年も、先日の日曜日に一級建築士試験の2次試験である設計製図試験がありました。課題は「ビジネスホテルとフィットネスクラブからなる複合施設」でした。受験生の方々には、夏を捨てて頑張り、大きな山を乗り越えて今ほっとしている頃だと思います。

今年の受験生の方から試験問題を見せてもらい、少し読んでみたのですが、非常に難しい内容になっていました。又、単に難しいだけでなく作図の量も多く、回答を完成させるのには試験史上最高難度の問題だったのではないかと思いました。人が可能な作業量のほぼ限界に近いと思います。ここ数年の問題レベルの上昇は激しく、10数年前の問題と見比べれば、その難易度の差が瞬時に分かるぐらいの違いがあります。

2次試験は簡単に言うと、難解な条件の建物を5時間半という時間内に、法的、機能的に適合した建物を設計し、製図する。という試験なのですが、製図はもちろん手描きなので作図は標準的に3時間程度はかかり、プランニングを考えられるのは実質2時間半です。その2時間半の間でほぼ、合格、不合格が決まるのです。(通常現実の業務では、試験内容の規模の建物の設計は少なくとも、基本プランの決定には1ヶ月以上要するものです。)単に勉強が出来るとか、手先が器用な人というだけでは解けず、直感力や図形認識能力など、有る意味特殊な能力が必要な試験です。このあたりは、確かに実際の設計でも必要な能力ではあります。

しかしながら今、社会で問題になっているのは建築士や建築業界の倫理についてだと思うのですが、2時間半という超ハイスピードで設計をこなす能力というのは、果たしてこの倫理観というものを審査出来る試験なのだろうか?という疑問が湧いてきます。さらに、良い設計をする、というのは短時間で行うのでは無く、検討に検討を重ねて丁寧に行わなくてはならないものです。今、求められている設計者というのは、一昔前の大量消費、大量生産の為の時間効率優先の人材では無く、丁寧な設計を倫理観を持って出来る人では無いかと思います。それが、建築文化を作って行くことに繋がり、結果的に信頼される建築業界が作れるのではないかと思います。逆に早く設計するということは、倫理観はとりあえず置いておいて、仕事の処理を優先する考え方にも繋がるような気がします。

来年から試験時間が更に延長されて、6時間以上になるようですが、単に問題の量を増やしただけにならないように、設計の質の確保を考えて、違う視点から出題してもらえるように願いたいものです。きっと出題している方々も悩まれている点だとは思いますが、一建築士として少し心配なところであります。ややもすると自己否定になりかねない内容ですが、自分自身への戒めも兼ねて、あえて書いてみることにしました。