これからの住宅設計について
建築
「新しい生活様式」という言葉がニュースで報じられる事態に至り、それに反応せざるを得ないということもあるのですが、住宅の設計を研究する者として新型コロナウイルスの蔓延による世の中の大きな変化を受けて、今感じていることを書きとめておきたいと思いました。
そもそも「生活様式」という単語は住宅設計の世界では「和式」と「洋式」に始まり、畳の上で生活する「床座」と椅子やソファを用いる「椅子座」、食事をする部屋と寝る部屋を分ける「食寝分離」など、西洋を中心とした生活様式や文化を日本の住宅に如何に取り入れるか?という問題に対して使われることが多かったように思います。多くの人が明治時代以前の古民家を見た時に、そこでの生活をすぐさまリアルに思い浮かべることが出来ないのは、生活様式の変化が長い時間を経て現代の住空間に大きな変化をもたらしたことが原因です。
もちろん今回の新型コロナウイルスの影響というのは異文化によるものでは無く、同列に考えることはできません。そういう意味では今回の影響による住空間の長期的な変化を予測することは難しい部分があります。しかし、病院というウイルス対策が考えられているビルディングタイプを参照することや、既に分かっていることも含めて推測は可能ですので、住宅設計において「変わること」「変わらないこと」について考察してみたいと思いました。
■変わること
ウイルスを屋内に持ち込まないという点について、手指の洗浄消毒を基本とするなら、家の入り口である玄関付近に手洗い場を設けることが有効であると思われます。また良く手が触れる部分であるドアノブ、スイッチ、手すりなどをウイルスが活性化しにくい素材で作る、又は消毒しやすい素材で作る、手の平で操作しない(肘や足先などで操作できる)形状とすることや非接触で操作できるようにすることが考えられます。
空気感染については、換気の効率を上げることが有効と思われます。換気には自然換気と機械換気の2種類がありますが、自然換気においては窓を1部屋になるべく2箇所設けること。風が通り抜けるように2箇所の窓は水平方向、垂直方向に離してレイアウトする。機械換気については、換気量が多すぎると外気を取り入れ過ぎて冷暖房効率が悪くなり、夏暑く冬寒くなるので適正な換気量を考慮するべきですが、万が一家族の1人が感染した場合の備えとして、1室は看病用に単独で換気設備が設けられており換気量がコントロールできるようにしておくことも有効かもしれません。高性能なフィルター内蔵の換気扇を用いることも一考の余地がありますが有効性の研究や、高いコストやメンテナンスの面で今後設備メーカーの改善開発が期待される部分でもあります。
テレワークについては、家の中に集中して仕事ができるスペースが必要になります。独立した書斎的な一部屋を設けることが理想ですが、都市住宅など面積的な余裕が無い場合もあるので、例えば応接室や寝室と仕事部屋を兼用する。リビングの一角にデスクコーナーを設ける。場合により、玄関、廊下、階段の踊り場、ガレージなど様々な部分に仕事のできるスペースを見つけることが出来るかもしれない。など、色々な工夫が考えられます。
上記が今後スタンダードなものとして定着して行くのかどうかは分かりませんが、一通り考えてみた結果これらは住宅設計における大枠を揺るがすようなものではなく、どちらかと言うと部分的なものであり、素材や設備的な問題に限られるという気がしました。もちろんこれらはとても大切なことであることは間違いありませんが、衛生、清掃性、換気効率、部屋の多機能性など今まで考えられてきた住宅設計問題の延長上にあると感じました。
■変わらないもの
建築に求められる最も基本的な役割は、人を守るシェルターです。シェルターとは雨風や寒暖、その他の脅威をしのぐことが出来る避難場所です。また、建物の一般的な定義は「壁または柱で囲われ、屋根を持つ構築物」なのですが、この構築物に文化や文明の進歩により様々な創意工夫が加えられ、豊かな空間を持ったものを「建築」と呼ぶようになりました。この進化そのものが建築の歴史と言っても差し支えないと思います。
そして皮肉にも、今回の新型コロナウイルスのパンデミックとstay homeのスローガンによって、多くの人が長時間家で過ごすことを経験したが故に、建築におけるシェルターとしての役割や進化を明確に感じることになったと思います。また同時に足りない部分も見えてきたのではないかと思います。私は今回、特に住宅において単なるシェルターとしての機能に加えて以下のようなことが大切だと再認識しました。
・長時間快適に過ごせること(家具)
・自然を感じられること(庭)
・環境と調和すること(他者への配慮)
例えば長時間同じ姿勢で過ごすと体の節々が痛くなってきます。正しい姿勢で座れたり、体勢をある程度変化させられるような冗長性のある椅子、ソファ、イージーチェアなどが家にあることは健康上の理由からも大切です。また適度に大きな机は、読書をしたり工作をしたり、料理や食事に重宝すると思います。そういう点で「家具」はとても大切です。
また、屋内に太陽光が差し込み、風が通り抜けることや、季節によって咲く花や新緑の芽吹きや萌える紅葉が家に居ながらにして見たり感じられることは、生活のリズムを整えつつ生気を与えてくれます。これらを効果的に家に取り込む為には「庭」の配置が重要で、建物が建っていない余白の部分を如何に丁寧に考えて設計するか?が重要です。また、大きな庭やスペースが無くても家の中に観葉植物や花瓶に花が生けてあるだけでも潤いを感じられます。住空間には、そういった余剰のスペースを想定しておくことが大切なのだと思います。
環境と調和すること、と言うと壮大な範囲を考えることになりますが、ひとまずその建物が建っている敷地周辺の環境と調和し、現状の環境が良い場合は大きな変化を与えずに建て、また隣地の環境が悪い場合は改善させることが出来るか?をじっくり考えて設計することから始めることが大切です。これらの他者(隣地)への配慮の連鎖が続けば、その地域に住まう人たち全員の居心地が良くなると思います。そして、その延長上で様々な知見を通して地球全体の環境と調和することを目指せば、長期に渡って持続的に多くの他の生物と共存することも出来るようになると思います。
これらの「変わること」「変わらないこと」を考えた結果、これからの住宅設計については新型コロナウイルスによる影響を受けざるを得ませんが、建築の目的が人を守るシェルターである限り、基本的な大枠は変わらないのではないかと思いました。今まで通り豊かな住空間を追求しつつ、既に分かっている多くの基本的な問題について、より丁寧に受け止めて設計を進めていくことが求められると考えています。
そもそも「生活様式」という単語は住宅設計の世界では「和式」と「洋式」に始まり、畳の上で生活する「床座」と椅子やソファを用いる「椅子座」、食事をする部屋と寝る部屋を分ける「食寝分離」など、西洋を中心とした生活様式や文化を日本の住宅に如何に取り入れるか?という問題に対して使われることが多かったように思います。多くの人が明治時代以前の古民家を見た時に、そこでの生活をすぐさまリアルに思い浮かべることが出来ないのは、生活様式の変化が長い時間を経て現代の住空間に大きな変化をもたらしたことが原因です。
もちろん今回の新型コロナウイルスの影響というのは異文化によるものでは無く、同列に考えることはできません。そういう意味では今回の影響による住空間の長期的な変化を予測することは難しい部分があります。しかし、病院というウイルス対策が考えられているビルディングタイプを参照することや、既に分かっていることも含めて推測は可能ですので、住宅設計において「変わること」「変わらないこと」について考察してみたいと思いました。
■変わること
ウイルスを屋内に持ち込まないという点について、手指の洗浄消毒を基本とするなら、家の入り口である玄関付近に手洗い場を設けることが有効であると思われます。また良く手が触れる部分であるドアノブ、スイッチ、手すりなどをウイルスが活性化しにくい素材で作る、又は消毒しやすい素材で作る、手の平で操作しない(肘や足先などで操作できる)形状とすることや非接触で操作できるようにすることが考えられます。
空気感染については、換気の効率を上げることが有効と思われます。換気には自然換気と機械換気の2種類がありますが、自然換気においては窓を1部屋になるべく2箇所設けること。風が通り抜けるように2箇所の窓は水平方向、垂直方向に離してレイアウトする。機械換気については、換気量が多すぎると外気を取り入れ過ぎて冷暖房効率が悪くなり、夏暑く冬寒くなるので適正な換気量を考慮するべきですが、万が一家族の1人が感染した場合の備えとして、1室は看病用に単独で換気設備が設けられており換気量がコントロールできるようにしておくことも有効かもしれません。高性能なフィルター内蔵の換気扇を用いることも一考の余地がありますが有効性の研究や、高いコストやメンテナンスの面で今後設備メーカーの改善開発が期待される部分でもあります。
テレワークについては、家の中に集中して仕事ができるスペースが必要になります。独立した書斎的な一部屋を設けることが理想ですが、都市住宅など面積的な余裕が無い場合もあるので、例えば応接室や寝室と仕事部屋を兼用する。リビングの一角にデスクコーナーを設ける。場合により、玄関、廊下、階段の踊り場、ガレージなど様々な部分に仕事のできるスペースを見つけることが出来るかもしれない。など、色々な工夫が考えられます。
上記が今後スタンダードなものとして定着して行くのかどうかは分かりませんが、一通り考えてみた結果これらは住宅設計における大枠を揺るがすようなものではなく、どちらかと言うと部分的なものであり、素材や設備的な問題に限られるという気がしました。もちろんこれらはとても大切なことであることは間違いありませんが、衛生、清掃性、換気効率、部屋の多機能性など今まで考えられてきた住宅設計問題の延長上にあると感じました。
■変わらないもの
建築に求められる最も基本的な役割は、人を守るシェルターです。シェルターとは雨風や寒暖、その他の脅威をしのぐことが出来る避難場所です。また、建物の一般的な定義は「壁または柱で囲われ、屋根を持つ構築物」なのですが、この構築物に文化や文明の進歩により様々な創意工夫が加えられ、豊かな空間を持ったものを「建築」と呼ぶようになりました。この進化そのものが建築の歴史と言っても差し支えないと思います。
そして皮肉にも、今回の新型コロナウイルスのパンデミックとstay homeのスローガンによって、多くの人が長時間家で過ごすことを経験したが故に、建築におけるシェルターとしての役割や進化を明確に感じることになったと思います。また同時に足りない部分も見えてきたのではないかと思います。私は今回、特に住宅において単なるシェルターとしての機能に加えて以下のようなことが大切だと再認識しました。
・長時間快適に過ごせること(家具)
・自然を感じられること(庭)
・環境と調和すること(他者への配慮)
例えば長時間同じ姿勢で過ごすと体の節々が痛くなってきます。正しい姿勢で座れたり、体勢をある程度変化させられるような冗長性のある椅子、ソファ、イージーチェアなどが家にあることは健康上の理由からも大切です。また適度に大きな机は、読書をしたり工作をしたり、料理や食事に重宝すると思います。そういう点で「家具」はとても大切です。
また、屋内に太陽光が差し込み、風が通り抜けることや、季節によって咲く花や新緑の芽吹きや萌える紅葉が家に居ながらにして見たり感じられることは、生活のリズムを整えつつ生気を与えてくれます。これらを効果的に家に取り込む為には「庭」の配置が重要で、建物が建っていない余白の部分を如何に丁寧に考えて設計するか?が重要です。また、大きな庭やスペースが無くても家の中に観葉植物や花瓶に花が生けてあるだけでも潤いを感じられます。住空間には、そういった余剰のスペースを想定しておくことが大切なのだと思います。
環境と調和すること、と言うと壮大な範囲を考えることになりますが、ひとまずその建物が建っている敷地周辺の環境と調和し、現状の環境が良い場合は大きな変化を与えずに建て、また隣地の環境が悪い場合は改善させることが出来るか?をじっくり考えて設計することから始めることが大切です。これらの他者(隣地)への配慮の連鎖が続けば、その地域に住まう人たち全員の居心地が良くなると思います。そして、その延長上で様々な知見を通して地球全体の環境と調和することを目指せば、長期に渡って持続的に多くの他の生物と共存することも出来るようになると思います。
これらの「変わること」「変わらないこと」を考えた結果、これからの住宅設計については新型コロナウイルスによる影響を受けざるを得ませんが、建築の目的が人を守るシェルターである限り、基本的な大枠は変わらないのではないかと思いました。今まで通り豊かな住空間を追求しつつ、既に分かっている多くの基本的な問題について、より丁寧に受け止めて設計を進めていくことが求められると考えています。