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リノベーションについて大切にしていること

建築

現在、当事務所では京都で築約250年の古民家、築約90年の京町家、築24年の在来木造建築物の改修設計(リノベーション)に取り組んでいます。既存建物の状態や間取り、要望や予算などもそれぞれ全く異なるのですが、設計を進める上で共通して大切にしていることについて少しお話したいと思います。

既存の建物はもちろん私が設計した建物ではありませんので、まずはどのような建物なのかを知ることからスタートします。平面、断面、立面の寸法はもちろん、デザイン的な特徴や過去の修理の履歴の調査。また場合によってはその建物が建っている場所について、街や集落の成立過程まで歴史を遡って調べることで、この建物がなぜこのような形で作られたかを知ることができます。

最も重要な寸法については既存建物の設計図面が残されていると大変助かるのですが、完全な状態で残されていることは希です。あったとしても実際に建物を測量してみると図面と現場の寸法が一致せず、結局実測して図面を起こすことになることが多いです。この実測はなかなか骨の折れる作業で、スタッフと一緒に巻き尺やレーザー測量計などを駆使して朝から夕方まで建物全体を丸4日間測量し続けてようやく満足出来る基本図面が起こせるというケースもありました。天井付近の測量などは、脚立を使って計測するので何度も昇降運動を繰り返し、いい汗をかくことになります。

過去の修理の履歴については、クライアントへの聞き取りを中心として知ることができるのですが、場合によっては天井裏や床下に潜って、修理の痕跡を探したりします。その痕跡を注意深く見ていると、どのような順番で修理や増改築を行ったのかが分かるようになります。あるいはその地域の町家や古民家について書かれている本や論文を調べることで、元々どのような空間構成であったかなども分かる場合があります。

そうやって時間をかけて詳しく調査や測量をしている中で徐々に当初は見えなかった部分が明らかになってくると同時に、本来その建物が持っている特徴や魅力、また建てられた当時の姿などが浮かび上がってきます。初見ではおぼろげに感じられていた既存建物の特徴が、ある時点で強く明確に感じられるようになります。この瞬間がともて大切で、今後どのように改修案を考えてゆけば良いかの方針が見えてきます。

改修設計のプランニングにおいて、耐震補強や断熱補強、遮音対策、光環境の改善、設備の更新、導線の整理などは当然のこととして検討するのですが、この建物で無ければ実現できないような空間をつくるリノベーションを目指すには、この建物が本来持っている特徴や魅力の発見と、それをさらに伸ばすような計画が最も大切だと思っています。せっかくリノベーションをするという選択をされたのですから、新築では味わえないような空間体験をして頂けたらと思っています。