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京町家のリフォームについて ♯03

建築









前回の記事から、あっという間に一年が経過してしまいました。
既にリフォームも完成しており、完結編になっています。
(調査編はいずれまた改めて書きたいと思います。)

明治時代後期、築117年の京町家のリフォームです。
最初に今回の計画について要点を端的に書き出します。

1.懐古趣味的な、オリジナルの町家が好きな人の為のリフォーム計画では無く、現代的な生活の為のリフォームであること。

2.現代の一般的な住宅の性能を満たしていること。単純に言うとそれは、断熱性能(省エネ)と耐震性能(安心)である。

3.京都市の長屋型町家が抱える問題について取り組んだこと。

懐古趣味とは、古いものや伝統的な手法により作られたものを好むことを言いますが、それを否定している訳ではありません。好みは人それぞれであって良いと思っています。伝統的な住宅(町家)の改修について、多くのバリエーションが存在することは好ましいことです。



※以下、長文になりますがもし宜しければ読んで下さい。

京都に住んでいると1200年以上の歴史がある都市ゆえに、当たり前のように古い建物や伝統的な文化に触れる機会が多くあります。
その良さは、この都市に住むことで自然と感じ取れるようになります。伝統的な様式を好む人が多く存在することで伝統的な文化や都市景観の保存が促進されることも大切なことです。

しかし、117年の年月を封じ込めたこの町家の持つ形式は当時の生活様式や社会的背景とは異なるため、一部の市民にとっては賞賛されるだけのものではありません。(例えば、断熱性能がほとんど無く冬寒くて隙間風が多いことや、インテリアエレメントや家具が合わないことなど。)
よって、今回は伝統的な町家の良さを理解しながら、クライアント個人の持つ現代的生活像とのギャップを解消することが計画の目標になりました。

デザインや外観の問題を除外すれば、極めて荒く言うならばそれは、断熱性能と耐震性能の問題だと考えています。冬暖かく、夏は涼しく、安心して暮らせる住まいを求めると必要な性能です。通風に関しては、町家は優れた形式を持っています。
法的制限と、予算による制限の中で、外皮を可能な限り断熱することを考えました。伝統的な建築の壁は土壁であることが多く、壁の中に断熱材を封入することが不可能な為、外壁の外面か内面に断熱材を付加するかたちで断熱を行います。しかし、密集市街地の町家の輪郭は多くの場合、敷地境界と一致していることが多く、現状より輪郭を大きくすることが出来ません。今回もそのケースに当たるため、内側に断熱材を付加する方法を採用しました。


耐震補強については、地震力に対して柔軟性のある構造体(軸組)と柔軟性のある土壁(耐力壁)の組み合わせによって抵抗する伝統木造工法に最も合った補強計画を、構造専門一級建築士の枡田洋子氏に計画の初期段階から入ってもらって考えました。
近年の木造の研究結果から、現代の木造(剛)と、伝統工法による木造(柔)の耐震に対する考え方は異なっていると言われており、それぞれに適した補強方法があります。現時点ではどちらが優れているということは無く、特にリフォームについては、それぞれ現状を見極めた計画が最も大切です。既存の構造体がそもそも弱い、ということをしっかり自覚して、少なくとも既存より強度が落ちるような計画をしないことも古い建物に手を加えるときは重要なポイントです。

もう一点、本計画建物は長屋型京町家と言って、3軒の町家がそれぞれの境界壁を共有している形式であり、構造としては3軒で1棟の建築物です。3軒とも所有者が異なり、3人のうち1人の住人が構造補強をしたいと考えても、構造体の1/3にしか手を加えることが出来ないのが現実です。
つまり、構造のリフォームを行っても1/3の補強強度しか発揮できずに終わるのです。3世帯の住人が同意の上、同時に構造のリフォームを行えば十分な補強が可能ですが、各世帯の事情を考えると、ほとんど不可能に近い話になります。
こういう長屋形式の京町家が京都市内には10000軒以上存在します。その数は京町家全体の約1/4を占め、耐震補強が進まない原因の1つにもなっていると言えます。

そこで、その打開策として考えたのが3棟を同時に現況の構造調査を行い、将来いつかするであろう構造補強計画を3棟同時に検討することでした。
現時点では1/3のリフォームでしか無くても、将来的にどの部分を補強すれば長屋全体の強度が増すのかが分かっていれば、少なくとも可能性は開けると考えました。
幸い、この建物の他の2軒にお住まいの方にご協力して頂き、計画することができました。


また、この計画を元にして今後長年にわたって住み継いでもらうことが出来れば、個人的要望から始まったリフォーム計画が、いずれ町並みの形成にとって役立つのではないかと考えました。

以上の基礎的な考察の上で、目指したのは町家本来の構造を大切にしつつ、現代的な生活にフィットする住まいに改修することです。





































建築設計:A.C.E.波多野一級建築士事務所

構造補強計画:桃李舎

建築施工:高橋工務店

写真撮影:沼田俊之