石州瓦の集落紀行ー1(石見銀山・大森地区)
建築
大きな色むらのある石州瓦
大森地区のメインストリート
川沿いに建つ民家
大森小学校
長い間行きたいと思っていた島根県に行ってきました。
目的の一つは島根の現代建築を見ること、そしてもう一つは赤い石州瓦の集落を見ることでした。多くの日本の地域では瓦は伝統的にいぶし銀や黒色ですが、島根県やその周辺では赤瓦(石州瓦)が主流の集落があります。しかも、伝統的な古い民家が建ち並んだ集落でも赤瓦なのです。数年前に初めて聞いたときにわかには信じがたく、本州の伝統建築の屋根瓦はいぶし銀であると思っていた私にとっては、少なからず衝撃的でした。
最初に行ったのは、ユネスコ世界遺産で有名な石見銀山のある太田市大森地区の集落です。銀鉱石の採れる山のすぐそばの谷川に沿って発達した鉱山町で、非常に細長くて密集しています。メインの町並みの全長は約800m。銀採掘坑道の龍源寺間歩(まぶ)までの道も入れると約3㎞で、集落の端から端まで歩くと1時間ぐらいかかります。戦国時代から江戸時代にかけて最も栄えた町で、一時は世界の年間銀産出量の1/3を産出しており、大変多くの人が居住していたそうです。地理的な特性からか、武家、商人の屋敷、寺社などが混在して町並みを形成しているのが特徴です。
見た印象は、最初は瓦が赤いのが目につきますが、しばらくすると見慣れてきて、いぶし銀瓦の伝統的な日本の集落と大きく違ったものではないと思えてきます。異国に来た、というような違和感は全くありませんし、下手な古い町並みよりもはるかにレベルの高い日本的な風景です。この一帯が伝統的建造物群保存地区に指定されていることもあり、建物に使われている素材がしっくいや土壁、木等で統一されていることや、千本格子などの典型的な和風の意匠が多いことも大きな要因ですが、赤瓦の色合いや素材感が落ち着いていて、適度なばらつきがあり、風景に馴染んでいることも一つの要因であると思いました。
ちなみに、国道沿いで見かける新興住宅地も赤瓦が多く採用されているのですが、こちらのものは均一な明るい赤色で、妙に浮いた感じがします。石州瓦のグレードも色々あるようで、良いものと安いものでは見た目の印象に大きな違いがあります。さらに、赤い瓦はアルミサッシや新建材との見た目の相性が非常に悪く、素材のコーディネートという点ではいぶし銀の瓦よりもはるかに難しいと思いました。このことは、いぶし銀の瓦に合わせて標準化された日本の建材にとってより厳しい条件で、そもそも合わなくて当然なのかもしれません。(いぶし銀の瓦であっても合わない場合が多いですが)
集落の中には黒い下見板張りで木造の大森小学校があり、この小学校は現役で使われており全校生徒は15名らしいです。そして何故かこの学校だけが黒い瓦です。しかし、写真で見比べても赤瓦の集落の風景との相性はさほど悪くありませんし、実際に良く馴染んでいました。
その要因はやはり、素材感と色合いによるものです。このことは、どのような色であっても、その微妙な色合いや素材感によって景観の質を上げることができること。又、逆に単に赤、青、黄など色の種類を限定しただけでは景観の質が上がらないということの証明の一つでもあると思いました。当たり前のことなのですが、この石州瓦の集落の風景を見ることによって、自分が住んでいる町の風景が相対化され、それをより明確に感じることが出来ます。