Works /
伊勢田の家 House in Iseda

「地面を意識する」こと平屋を設計するにあたり、その特徴を最大限に生かした設計を心掛けたいと思いました。
元々、敷地には小さな平屋の古家が2棟並んで建っており、堂々とした切妻屋根が連続している素朴な姿は好ましい建ち方でした。豊かに葉を茂らせた既存樹木の金柑、キンモクセイ、紅葉などの背の高さと比べても軒の低い平屋のスケール感は同程度でちょうど馴染んでいました。また南北の空地(庭)によって隣地との間隔が十分空けられており、近隣の住民にとっても既存家屋と同規模のスケールでの建て替えは歓迎されていると感じました。
同時に、直感的にクライアントの要望が長年過ごしてきた生家の風景の中で、平屋という低く控え目な姿は最も残しておきたい要素であると感じ、それに設計者として強く共感したということもあります。

平屋はどの部屋からも窓の外の庭に目をやると樹木の幹から枝葉まで眺められ、草や花も手を伸ばせば届く距離にあり、季節の変化を強く感じられます。
そこで庭と屋内をより連続的に感じられるように、リビングダイニングは南側の庭に面して大きな窓と土間空間を設け、床レベルが近づくように、周囲に砕石を盛り上げて敷き、より庭が身近に感じられるように考えました。リビングのソファコーナーは他の部分よりも床面を150ミリ低く設定することで、より庭に近いレベルでくつろぐことが出来ます。

「屋根をかける」こと構造がシンプルになることも平屋の特徴の1つです。柱が支えるものが基本的に屋根のみであるということは、言い換えると、いかに屋根をかけるか?ということが重要な設計ポイントになります。
伊勢田の家ではシンプルで構造的な合理性があり、光の取り入れ方が工夫でき、さらに空間的な変化にを与える屋根の形式として段違いの片流れ屋根の組み合わせを採用しました。
傾斜した3本1組の登り梁はお互いしっかり組み合わされて揺れる力に抵抗し支え合うことで、細い部材でも十分な強度が確保できます。南北の窓からの採光に加えて、上方のハイサイドから安定した北側の天空光を取り入れ、光と空の変化が楽しめます。
屋根の木構造を現しにすることによって、力の伝わり方を直感的に理解できることは、視覚的な安心感を生み出しています。また、キッチン、和室、リビング、ダイニングをワンルームの空間としながら、障子、家具の配置、床の段差、天井高さによって空間の質を変化させることを試みています。

「平屋」とは改めて考えるとシンプルな構成である「平屋」には色々なメリットがあります。外部からアクセスがしやすく、軽量で構造強度においても有利なこと。また、ボリュームの小さな建物は日当たりを遮らないため、近隣環境の変化を最小限に抑えらます。何よりヒューマンスケールの小さな建物は人間の感覚に馴染みやすく、暮らしに落ち着きを与えると思います。
一方で、複層階の建物に比べて、壁長が長くなるのでややコストアップすること、建物を建てる面積が大きくなるので、庭がその分小さくなることなどがあります。ですが条件が許せば「平屋」は魅力的な形式だと思います。



所在地 / 京都府
主要用途 / 住宅
規模 / 地上1階
主体構造 / 木造軸組工法
構造設計/ 下山建築設計室 下山 聡
施工 / 株式会社竹内工務店
写真 / 沼田俊之